多焦点眼内レンズとは


- 単焦点眼内レンズは、ピントの合う距離が1つです。ピントの合わない距離にあるものを見る際には眼鏡をかける必要があります。60年以上の歴史があります。
- 多焦点眼内レンズは、ピントの合う距離が複数あります。眼鏡をかける頻度を減らせる可能性があります。20年以上の歴史があります。
- 手術方法や安全性に違いはありません。
多焦点眼内レンズの見え方

- 単焦点眼内レンズは、ピントの合う距離が限られます。見える範囲は遠方に合わせた場合、手を伸ばした距離から先がよく見えます。そのため手元を見るには老眼鏡が必要になります。
- 多焦点眼内レンズは、ピントの合う距離が広く眼鏡を使いたくない方に向いています。ただし、コントラスト感度(よりクリアに物が見える)は単焦点レンズ>焦点深度拡張型>回折型になります。
眼内レンズ選びは人生で一度きり

白内障手術の治療では、濁った水晶体を取り除き、その代わりに眼内レンズを挿入して固定する方法が一般的です。眼内レンズの寿命は長く、よほどのことがない限り一度挿入したら取り替えることはありません。だからこそ、これからの毎日をより快適に過ごすためにも、白内障やその治療法について正しく理解し、あなたの生活にあった眼内レンズを選ぶことが大切です。
多焦点眼内レンズのメリットとデメリット

多焦点眼内レンズは、焦点距離によって「3焦点タイプ」と「焦点深度拡張型タイプ」に分類されます。以前は視覚を確保することが白内障治療の大きな目的でしたが、「不自由なく、より快適に暮らせる見え方」=「メガネをかけない生活」という選択ができるようになってきています。どのレンズにもメリットとデメリットがあります。
多焦点レンズに向いていない方
- 眼の疾患がある方(加齢黄斑変性、黄斑前膜など黄斑疾患がある方、糖尿病網膜症、緑内障で視野欠損がある場合、円錐角膜、角膜混濁、ドライアイが強いなどの角膜疾患がある方、網膜剥離の既往がある方)はコントラスト感度が低下して多焦点レンズの利点が減少します。
- 完璧な視力を求める方、微妙な違和感に敏感な方、完璧主義を求める方、心身症的傾向(恐怖心や不安が強い方)は、コントラストの若干の低下、細かい文字が読みにくくなるなど、術後の見え方が気になることがあるため不向きです。
- 眼に強い乱視(矯正が難しい場合)、瞳孔径が大きい・小さい(夜間ハローや焦点ずれのリスク)、眼内炎や外傷のあった方は、術後の安定性に影響を及ぼします。
- 医師の指示を守れない、定期的な通院が困難、糖尿など全身疾患でコントロールが不十分な方、術後管理が難しい方も向いていません。
- 年齢的には、40~70代前半の方で前述することがない方(眼鏡をできるだけ使いたくない、見え方の違いにも順応に対応できる)が選定療養の多焦点眼内レンズの適応となります。
ハロー・グレアとは
多焦点眼内レンズでは光の回りに輪が見える「ハロー」や光をまぶしく感じる「グレア」が出ることがあります。夜間に車を運転することがある場合は眼内レンズ選択時に検討が必要です。夜間のハロー・グレアは、手術後、時間が経過するに伴い気にならなくなる方がほとんどですが、どうしても気になる方もいます。
コントラスト感度の低下について
コントラスト感度とは、濃淡を見分ける能力です。多焦点眼内レンズの使用でコントラスト感度が低下することがあります。数字として10~15%ぐらいの低下があります。術後すぐには気になっていた方でも、次第に慣れることが多いようです。また、まれに、時間が経過しても見え方に違和感が残る方もいます。
慣れるまで時間がかかります
手術直後から、すぐによく見えるとは限りません。見え方に慣れるまで1ヶ月程度かかることがあります。遠近両用のメガネやコンタクトレンズを使用されていた方は比較的慣れやすいといわれています。
不適応
白内障手術後、眼内レンズが目に合わない(不適応)場合、様々な要因が考えられます。多焦点眼内レンズの場合、ハロー・グレア現象やコントラスト低下などの副症状が、ご自身の生活や視覚機能に適応しないがあります。また、白内障以外の目の病気や、強い乱視がある場合も不適応となる可能性があります。国内報告では、9割強の方が満足していますが残り1割弱の方は再手術することがあるそうです。その場合、当院ではレンズの入れ替え・交換(55,000円税込)を行うことができます。
眼鏡が必要なこともあります
読書、新聞、裁縫など手元にピントが合いにくい場合は、眼鏡が必要な可能性があります。
白内障手術後の眼鏡の必要性について

| 単焦点眼内レンズ(遠距離にピントを合わせた場合) | 手元など、近くを見るために眼鏡が必要になります。 |
|---|---|
| 単焦点眼内レンズ(近距離にピントを合わせた場合) | 景色や看板など、遠くを見るために眼鏡が必要になります。 |
| 多焦点眼内レンズ(3焦点) | 遠中近の3点の距離が見えるため、眼鏡を必要とする場面が大幅に減ります。ただし、ピントの合う距離を自在に調節できるわけではなく、微妙な距離のものをはっきり見るためには眼鏡が必要になることもあります。 |
| 多焦点眼内レンズ(焦点深度拡張型) | 遠から近くまで切れ目なく見えるため、眼鏡を必要とする場面が大幅に減ります。手元が若干弱い特徴の眼内レンズの場合は、近くをはっきり見るためには眼鏡が必要になることもあります。 |
眼内レンズの選び方について

白内障手術で挿入する人工眼内レンズを適切に選ぶ際には、ライフスタイル、お仕事、趣味に合わせることが重要です。
- 「単焦点眼内レンズ」は保険適用です。選択される場合は、遠く、中間、近くの焦点を合わせた距離にしかピントがあいません。「元々、遠くが見えていた方は遠くに、近くが見えていた方は近くに合わせる」ことをお勧めしています。どの距離が見たいかを診察の時に医師にお伝えください。
- 「多焦点眼内レンズ」は選定療養です。選択される場合は、3焦点・焦点深度拡張型から選ぶことができます。近年、新しいレンズの発売が続いております。多焦点眼内レンズの選択については、診察時にどういった見え方になりたいかを踏まえて相談しながら決めていきます。ご希望やご不安な点があれば診察の際に医師にお伝えください。
人工眼内レンズは手術後、入れ替えやケアの必要がなく生涯お使いいただけます。検査スタッフは、それぞれのレンズが持っている特徴を熟知しており、患者様のご希望やご不安などを伺いながら適切なアドバイスをしています。どんな疑問にもきめ細かくお答えしておりますので、なんでも気兼ねなくご相談ください。
「単焦点レンズ」か「多焦点レンズ」どちらがいいですか?
眼内レンズの選択は誰もが迷われます。まずは、「保険診療」か「選定療養」かを決めるとスムーズです。また、フローチャートやチェック表などで自分にあった眼内レンズはどんなタイプがいいのかを考え、診察の際にご希望をお聞かせください。*ブルー:保険診療 *オレンジ:選定療養
眼内レンズにはどんなレンズがあるの?
多焦点眼内レンズは、焦点距離によって「3焦点タイプ」と「焦点深度拡張型タイプ」に分類されます。どのレンズにもメリットとデメリットがあります。
多焦点レンズは実際にはどういう見え方でしょうか?
眼内レンズはあらかじめ設定した距離に焦点が合うようになっているので、レンズによって見え方が異なります。夜間は、レンズの種類によって電灯や車のライトが散乱して見えたり、ライトの周りに丸い輪状の光が見えたりすることがあります。
多焦点レンズはどう選べばいいでしょうか?
日常生活の中で、どのような見え方を望むのかを良く考えたうえで、あなたのライフスタイルにあったレンズを選びましょう。まずは、下の図でどのタイプになるか選んでみましょう。

3焦点レンズ(回折型)とは
3焦点眼内レンズは、遠中近の3つにピントを合わせられています。できるだけ眼鏡を使いたくない方に適しています。焦点深度拡張型と比べると、コントラスト感度の低下で見え方の質が落ちたり、夜間の光がにじんだり、まぶしさが気になることがあります。
焦点深度拡張型(連続焦点型)とは
焦点(ピント)の合う距離の範囲が遠くから近く設定されています。3焦点レンズと比べると、夜間の光のにじみは少ないです。遠方から中間はクリアですが、近方が弱く老眼鏡が必要な場合があります。
多焦点レンズの種類について

当院での白内障手術では、国内で承認されている眼内レンズのみを取り扱っています。国内で未承認の5焦点、7焦点などの眼内レンズは取り扱いはありません。
TECNIS PureSee(テクニス ピュアシー)焦点深度拡張型(EDOF)
2025年に国内承認された焦点深度拡張型(EDOF)技術を採用した多焦点眼内レンズで、遠方から中間距離までの視力を自然に補正します。光の分散を抑制し、夜間視力や乱視補正にも優れています。ただし、近方視力の補正がやや弱く、眼鏡が必要となる場合があります。
Clareon Vivity(クラレオン ビビティ)焦点深度拡張型(EDOF)
2023年に国内承認されたClareon Vivityは、非回折型の焦点深度拡張型レンズで、高いコントラスト感度と優れた夜間視力を提供します。遠方から中間距離の視力を補正し、手元の細かい作業には眼鏡が必要となる場合があります。選定療養の対象となり、自己負担が必要です。夜間の運転や明るい環境での視界を重視する方にとって、快適な視覚体験を提供する選択肢となります
TECNIS Odyssey(テクニス オデッセイ)回折型連続焦点
2024年に国内承認された遠くから手元まで“なめらかに見える範囲(連続焦点)”を追求した新しいタイプの眼内レンズです。夜の運転や暗い場所での視界も改善を目指した設計がされており、眼鏡をかける回数を減らせる可能性があります。ただし、最も近い距離(例えば30 cm未満)での見え方は従来の“強力な多焦点”ほどではない可能性があります。
PanOptix(パンオプティクス)回折型3焦点
2019年10月に国内承認されました。遠くから近くまで3つの距離でピントが合いやすいよう設計されています。テレビ・パソコン・スマホ・読書など、いろんな場面で眼鏡を使う頻度を減らせる可能性があります。ただし、夜の光のにじみ(ハロー・グレア)や、極めて近い距離では眼鏡が必要になることもあります。
Vivinex Gemetric(ビビネックス ジェメトリック)回折型3焦点(国産)
遠くも中間も近くも見えるように設計された3焦点のレンズです。特に遠くをしっかり見たい方・夜間運転をされる方には良い選択肢です。ただし手元(30 cm以内)の見え方に関しては、もっと近くを優先した設計のレンズに比べると少し控えめな面があります。また、多焦点レンズですので、まれに夜間に光がにじんだり、コントラストが落ちたりすることもあります。
Vivinex Gemetric Plus(ビビネックス ジェメトリック プラス)回折型3焦点(国産)
2025年4月に国内で販売開始されました『遠く・中間・近く』の3つの焦点を持つトリフォーカル眼内レンズで、特に“手元(約38〜40 cm)”の見え方を強化した日本製の最新モデルです。
遠くの見え方をなるべく保ちつつ、読書・スマホ・手芸といった近くの作業も快適にしやすい設計です。ただし夜間の光のにじみや暗所での見え方の変化はゼロではありません。また、手術後すぐに慣れるわけではなく、数週間〜数か月で脳が順応する過程があります。
FINEVISION HP(ファインビジョン HP)回折型3焦点
BVI社が販売している回折型の3焦点眼内レンズです。近方(30㎝)から遠方距離まで良好な視力が見られ、グレアはありますが、不快光視現象であるスターバーストは他の回折型と比較すると少ないと報告があります。デメリットとして、強度近視の方と乱視矯正はレンズモデルがないことです。
アクリバトリノバ Pro(Acriva Trinova Pro)回折型3焦点(+EDOF特性併用)
遠く・中間・近くをカバーする3焦点設計の眼内レンズで、さらに視距離をなめらかにする特性(EDOFに近い設計)も持たせています。テレビからパソコン・スマホ・読書まで幅広く対応できるよう設計されています。ただし、夜間の光のにじみや、完全に眼鏡なしになる保証はありません。
沢山ありすぎて、どう選べばいいでしょうか?
当院の多焦点眼内レンズは、国内承認の選定療養のレンズをすべて扱っております。医師と相談の上、ご自身の生活スタイルにあった最適な眼内レンズを決定してください。

多焦点眼内レンズの手術費用(選定療養)
多焦点(老視矯正)眼内レンズ挿入術における眼鏡装用率の軽減効果が広く認められたため、多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術は、令和2年4月より厚生労働省が定める選定療養の対象となりました。当院は選定療養を行う医療機関として届出をしています。当院での多焦点眼内レンズは、選定療養対象の国内承認の多焦点眼内レンズのみです。自由診療の多焦点眼内レンズの取り扱いはしておりません。
選定療養対象の手術費用+多焦点眼内レンズ
画像引用元:日本眼科学会
| 片眼 | |
|---|---|
| 1割負担 | 手術費用(保険診療分)約15,000円+多焦点レンズ代 |
| 2割負担 | 手術費用(保険診療分)約30,000円+多焦点レンズ代 |
| 3割負担 | 手術費用(保険診療分)約45,000円+多焦点レンズ代 |
選定療養対象の多焦点眼内レンズの費用
|
販売元 レンズ名 レンズタイプ |
片眼 |
|---|---|
| AMO社 テクニスピュアシー 焦点深度拡張型 |
乱視なし:240,000円(税込) 乱視矯正:290,000円(税込) |
| アルコン社 クラレオンビビティ 焦点深度拡張型 |
乱視なし:240,000円(税込) 乱視矯正:290,000円(税込) |
| AMO社 テクニスオデッセイ 回折型連続焦点 |
乱視なし:270,000円(税込) 乱視矯正:320,000円(税込) |
| アルコン社 クラレオンパンオプティクス 回折型3焦点 |
乱視なし:240,000円(税込) 乱視矯正:290,000円(税込) |
| HOYA社 ビビネックスジェメトリック 回折型3焦点 |
乱視なし:240,000円(税込) 乱視矯正:290,000円(税込) |
| HOYA社 ビビネックスジェメトリックプラス 回折型3焦点 |
乱視なし:240,000円(税込) 乱視矯正:290,000円(税込) |
|
BVI社 ファインビジョンHP 回折型3焦点 |
乱視なし:240,000円(税込) 乱視矯正:なし |
| わかもと アクリバトリノバPro 回折型3焦点 |
乱視なし:240,000円(税込) 乱視矯正:なし |
| 眼内レンズの入れ替え・交換 |
55,000円(税込) |
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